マンチェスター大学の教育学修士課程(英語教授法専攻)も2月3日から
後期に入りました。
私が登録したクラスは
・Classroom research
・Course design and evaluation
・Education of language teachers の3つです。
今回は、この中の「Classroom research」から学んだことを
ご紹介したいと思います。
◆There are five types of knowledge (5種類の知識とは)
Classroom research というクラスは、
「どこぞの学者のリサーチ結果に頼って教授方法を模索するのではなく、
英語教師が自分の教室・生徒を研究対象にして自らリサーチすることにより、
ティーチングを改善していこう!」という
考え方に基づいて
必要なリサーチ力を身につけるためのクラスです。
さて、1回目のレッスンでいきなり出てきたのが冒頭の言葉。
「
five types of knowledge 」
5つ並べて書いてみますね。
1. knowledge as belief |
(個人的信念) |
2. knowledge as authority |
(権威) |
3. a priori knowledge |
(論理的帰結) |
4. knowledge as experience |
(個人の経験) |
5. empirical knowledge |
(リサーチ結果) |
具体的に、ここでは「
英語を話すには、英語圏で生活するに限る 」
というknowledgeを例に1つ1つを説明してみましょう。
1. knowledge as belief 個人的信念
たとえば関西弁で言いますと、
「英語?アメリカいったら
そのへんのガキんちょでも
話してるやん。
ごちゃごちゃ勉強せーへんでも
とりあえずアメリカ行って
生活してたらしゃべれるようになるん
ちゃうかな〜。。」 ということ。
・・・根拠は特にないけど
なぜかいつのまにかそう信じている。
そういう知識がknowledge as beliefなんです。
2. knowledge as authority 権威
またまた関西弁で例えると、
「あの俳優のXXさんが
TVで言うてたけどな、英語なんて大嫌いやってんて。
それがニューヨークで仕事しているうちに友達もできて、しゃべれるように
なってんて。やっぱ、外国行くのが一番早いんちゃう〜。」 てな感じ。
・・・この場合、根拠は「俳優のXXさん」の権威。
「この人がいうことなら間違いがない!」
「その道の権威がいうこと」に基づく
こんな知識がknowledge as authorityです。
3. a priori knowledge 論理的帰結
おなじみ関西弁です。
「日本人が英語がなかなかしゃべれへんのってインプットが少ないかららしいわ〜。
こないだ読んだKrashenとかいう学者の本に書いてあってん。
ってことは、一番の近道は海外で英語漬けで生活することちゃう?」
・・・この場合、権威(Krashen)が
唱える説に基づいて、自分なりに
論理的に
発展させた
そんな知識がa priori knowledgeです。
4. knowledge as experience 個人的経験
人から経験した話を耳にする事はよくありませんか?
「私?英語なんて全然できひんかってん。
ダンナの転勤で仕方なく
ロスについていってんけどな最初はつらかったで〜。
なんもわからんかったもん。
でもTV見てるうちになんとなく
聞き取れるようになってきて
最後はいい友達できたで〜。
日本で英会話学校行くくらいやったら、
向こうで住んだほうがいいと思うよ〜。」
・・・自分の個人的経験を
根拠にした、
そんな知識が
knowledge as experience。
5. empirical knowledge リサーチに基づく
おなじみ関西弁。
「こないだ、日本人の語学留学生を対象にするリサーチ結果を読んだんやけどな、
イギリス来るまで英語がほとんど
しゃべれへんかったって人でも
少なくともXX年経ったら、日常会話には
困らなくなってる人が多かったわ。
XX年っていうのが長いか短いかは
別問題やけど、やっぱり海外行くのが
よさそうやな〜。」
(注:このリサーチ結果は架空です)
こういう生のデータを集めた
リサーチに基づく知識。
これがempirical knowledge。
・・・以上、5つの種類の「知識」を例を挙げてご紹介してみました。
いかがでしょうか?
ふだん何気なく、
「これがいい」「こうすべき」と
思っていること、断言していることも
こうやって分類してみると
案外、根拠が怪しかったりしますよね。
ここで私が学んだ大事なことは
1〜5のknowledgeのどれがよくて
どれが間違っている、ということではなく
1〜5のバランスが大事、ということでした。
英語教師というのは、
自らの経験・信念に基づく「英語学習法」を
生徒の皆さんにご紹介することが
少なくありません。 私の場合はディクテーション。
あらゆる人に「ディクテーションはいいよ〜」と断言してきましたが
この根拠ってなに?と改めて
自分に問いかけました。
確かに「自分」というサンプルでは成功した勉強方法だけど、
それってknowledge as experience だけ?ううむ。
そう考えると、knowledge as authorityとか
empirical knowledgeが足りないかなあ。
もしかして、もっともっと優れた学習法があるのかもしれないし!
これに気づいたとき教師はさらに飛躍できるように思います。
思い込みや限られた個人の経験だけに頼ることなく、自分に問いかけ続けること!
これを私も信条にしたいと思います。
英語学習者のみなさんは世の中にあふれるあらゆる英語学習法の
どれを信じたらいいのか迷われることが多いと思います。
そんなとき「この人は一体どのknowledgeに基づいて
主張しているのかな」と考えてみると振り回されずにすむかもしれませんね。
・・さて、最後にディクテーションですが関連する研究論文がありました。
ディクテーションが確かに日本人学生のリスニング力アップに
効果があったという結果です(参考文献参照)。
ちょっとホッとしたワタシ・・
参考文献
Seliger, H. & Shohamy, E. (1989)
Second Language Research Methods, Oxford: O.U.P.
Krashen, S.D. (1982)
Principles and Practice in Second Language
Acquisition, Oxford, Pergamon
Takeuchi, O (1997) Dictation: Is it really effective
for language teaching?
Kansai University, Audio-Visual Education 20